白と黒のコーヒータイム
「ね、ねえ。なんか…機嫌悪い?」

「悪いって言うか、悔しい。」

「悔しいって…な、名村!?」

問いに答えきることなく腕を掴んだまま名村は歩き始め、引っ張られる形で国見の足も動き始めた。

「えっ!?戻るの!?」

出たばかりの美術館の敷地内に戻っていき人気の無い庭園の方へと向かって行く。

「名村!」

人の出入りが少ない日だったのか、誰ともすれ違わないのが幸なのか不幸なのかどうにも複雑だ。

でもやっぱりこの状況は穏やかではなかった。

「ねえ、名村!」

いくら呼びかけても、どうやら名村はそれに応えてくれる気はないらしい。

やはり何かしらで国見が怒らせてしまったのだろうか。

置かれている状況が分からないまま国見はただ付いていく事しか出来なかった。

ちょっとした死角に入ったところで名村は振り返り国見を逃げ場のない場所に追い込む。

ひらけた場所もあるだろうが、ここは生垣が頭の高さほどあって迷路のような造りだ。

探険出来たらどんなにおもしろいだろうか、でも今はその余裕も無さそうで。

こんなところに何の用があるのだろう、そんなことを思った時だった。

目の前には距離の近い名村の顔がある。

「わっ!」

またまた名村と向き合った事に驚いて思わず声を出してしまうが、その事が名村の眉間のしわを深くさせた。

後ろは繁み、横は照明灯と上手く空間を利用した追い込み方に混乱しながらも国見はツッコミを入れそうになる。

よくこんな場所を見つけたなと。

しかし国見の思考が自分から離れたのを察した名村はさらに顔を近付けて凄みを見せた。

まるで自分を見ろと訴えているようだ。

「な、なに?」

「これも国見の言う強引なやり口?」

「ご、強引!?」

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