マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
『ブーイングがひどくてひどくて、殺される
かと思ったよ。』

『死にたくなるんじゃなくて、殺されるんで
すか。』

僕は笑った。
海外のブーイングなんて凄いんだろうな。


『それでも、楽団員は励ましてくれたんだ。
君は立派にやってる。ブーイングなんていち
いち気にしてたら、ここでは何にも出来ない
よって。』


パソコンの中の先生を見ながら、そんな事を思い出す。
先生の場合は味方がいた。
僕はどうだ。
味方のいない指揮者が、本番でひどいブーイングを受けようものなら、救いようが…


そこまで考えて、はっとなった。


僕は未だ、何も失ってない。
本番すら迎えて無い。


画面の中の先生の指揮がジャンプし出した。

自分の手の甲にポタリと涙が落ちた。


嬉しいとか悲しいとか悔しいと言う感情で泣く事はあっても、情けないと言う感情で泣くなんて初めてだった。

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