マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「そんな中、師事を受けている先生の公演が
日本であるというので、私もアシスタントと
して、同行させて貰ったんだ。もう何十年も
前の話だ。」(仏)

「へええ。」(仏)

「日本に着いて、移動中のタクシーの中でラ
ジオからこの曲が流れてきたんだ。
もう、自分が指揮をした曲と同じとは思えな
い位素晴らしくて、一つ一つの音に慈愛が込
められているのが、伝わってきて。
気が付くとボロボロ涙を流してたよ。」(仏)


フレール氏の目は懐かしさに満ちていた。

「君が指揮をしたこの曲を聴いた時、この時
の事を思い出したんだ。
…ふふ。不思議だなぁ。自分がこの曲を振って
失敗したことは覚えてても、タクシーの中で
曲を聴いたことは、すっかり抜け落ちてて。
あんなに感動したのに。」(仏)


「…誰の指揮だったんでしょうね。」(仏)

曲の紹介はするだろうけれど、日本語だから分からなかっただろう。

フレール氏はただ、にっこりと笑った。


「君が指揮をした船歌は、質感が伝わってく
る様に鮮やかで、同じ日本人だからこうも懐
かしく聴こえるのかなんて思ってね、改めて
調べてみたんだ。」(仏)

「…?、はあ。」(仏)

何をだろう。

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