マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
この曲、『版画』を作曲したドビュッシーは、
「音で絵を描く」とまで評される人物だ。
想像力を掻き立てられる音はとても色鮮やかで目の前には景色が広がる。
自身も日本の漆塗りのお盆から想像した曲を作ったりしている。

『版画』は、「搭」「グラナダの夕暮れ」「雨の庭」の三曲からなる組曲。
何でも、旅行に行けないので曲を作ることで色々な国へ行った気分を味わいたかったらしい。

その目的は自身を満足させるだけでなく、聴く人にも、異国の地へ想いを馳せさせる事が出来
ているし、充分果たせていると思う。


……そこで。
奏ちゃんの演奏はと言うと。

ごくごくありふれた風景、何番煎じの表現、それしか浮かんで来ない。
重ねて言うが、別にそれを下手だとか悪いと言う訳ではない。
プロになる、と言う事は自分の演奏でお金と言う対価を得る事だ。普通のありふれた演奏なら
奏ちゃんでなくても誰でも良い、と、観客はお金を払ってまで見たいはずが無い。

奏ちゃんのピアノでしか聴けない個性、特長、
そういったものは感じられない。
自分が表現したい事はあっても、それをピアノの音に仮託する術を持ってない。
そういう印象を受けるのだ。


気付けば、奏ちゃんは後ろを振り返り僕を見つめていた。
いつの間にか、演奏は終わっていた。
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