マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「、え……っと……。」

「……どうでした?」

言葉が浮かばない。

「私の、……ピアノ。」

そんなすがる様な眼差しで見つめられては、益々言葉が浮かばなくなってくる。

言えば良いのだ。

残念だけど、何でも吸収できる年代は過ぎて、ある程度固まってしまっている今の年齢では、
才能も可能性も伸びていくとは思えない、と。
そうはっきり指摘して、諦めて僕のマネージャーを続けてくれるよう頼めば良いのだ。
奏ちゃんには、ひどく酷な事だけれどもー、


「ーーーー。」

言えるわけがない。


「……ホントですか?!」

えっ?

い、今、僕何て言った?と言うか言葉を発したという自覚すら無いんだけど……。

ヤバい!

「わ、悪くないって、一応自信を持って良い
って事ですよね。」

ちょうポジティブ!!……じゃなくて!
流されて僕は、そんな事口を滑らせたらしい。

「私、頑張ります!推薦して下さったマエス
トロの為にも!」

益々ヤバい。そう言えば、そんな約束したんだった。音楽監督のフレールさんに推薦するっていう……。

何だか、綸言汗の如しの様相を呈してきた。
僕の額や手のひらにはじっとりと汗がにじんできていたのだ。


でも、後悔はしていない。
何故なら、奏ちゃんは嬉しさの余り僕に抱きついてきたからだ。
流れのままちゅうも出来るかもしれない。

僕は下心満々で奏ちゃんの耳から頬にかけて手を滑らせ、おとがいを上に向けようとした。


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