マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
『……何かさ、……分かんなくなってきたんだけ
ど、 俺達付き合ってんだよな?奏、俺の事ち
ゃんと好きなの?』

自信無さ気な表情とは逆に、問い詰めるような口調で訊いてきたのは、1学年上の弦楽器コースの先輩だった。

……あー。そっか。そうだったんだ。

『ホントだよね。考えたこともなかったかも
好きじゃなかったんだね。』

『は………?』

『ゴメンなさい。好きかって訊かれると、そ
うではないと思う。』

『、……はあ?!何だよソレ!じゃあ何で奏は
OKしたんだよ!』

『だって、センパイが付き合ってくれって言
ってたから。』


付き合ってくれって言ったから、付き合っていた。ただ、それだけの事なのだ。

付き合ってくれって言われたとき、私には他に好きな人なんて居なかった。
周りの友達にも、彼氏がいる子がチラホラ出て来て、何となくその流れに乗っかりたかったのかもしれない。


センパイはそのまましばらく固まっていた。


今となってはもう、そのセンパイの名前もあやふやで思い出せない。
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