マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
演奏が終わり、拍手に包まれる。緊張感が解れた独特の雰囲気が会場を支配する。
マエストロはコンマスさんと笑顔で握手を交わしている。

私はその光景を舞台袖に置かれたモニター越しに、何と無く眺めていた。


マエストロにピアノを聴いて貰ってから、しばらく経つ。

あれからどうなりましたか?なんて訊けない。
マエストロは今回の公演に向けて、何時にも増して忙しそうだったのだ。
そこまで私も厚顔無恥ではない。

分かっている。分かってはいるんだけれども、
気がはやる。それに、マエストロが音楽監督に推薦してくれたとしても、受け入れて貰えるとは限らない。

今更ながらえらいことを頼み込んだものだと、顔が青くなる思いだが、反面図々しさを誉めたい自分がいる。
その辺は厚顔無恥なのだ。

ボールは投げた。

今はそれを再びキャッチ出来る事を願っている
所だ。


マエストロは重要なパートを担当したメンバーを一人ずつ立たせ、拍手に応えていた。
が、一通り終わり拍手が収まると、何故かコンマスであるボナリーさんに楽器を借り、何やらヴァイオリンを手に持って構え、ウォーミングアップ的にかき鳴らしている。

ヴァイオリンも弾けんのか……。
いらっとさせられる。


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