それでも君が必要だ
副社長さんは、微笑んでいるように見えなくはないけれど、やっぱり読み取れない表情で私を見つめた。
黒い瞳に見つめられたら吸い寄せられて、自然と見つめ合ってしまう。
「いやあ、若いっていいですなあ」
今まで困った顔で黙っていた社長さんが、私たちの様子を見て頭に手をあてた。のんびりした口調でニコニコと言ったから、空気が急に柔らかくなる。
「息子にこのような縁談をいただいて、その上助けていただく立場でこんなことを言うのも恐縮なんですがね」
社長さんは一度言葉を切り、人の良さそうな笑顔を父に向けゆっくりと言った。
「ご自分の娘さんを『役に立たない』とか『不細工だ』なんて、言うもんじゃありません。私はこんな可愛らしいお嬢さんが私の娘になってくれるなんて、夢のようですよ。私は可愛い娘がずっと欲しかった」
「……」
絶句した。
息ができない。
そんな言葉、初めて聞いた。
父の言動を注意するなんて……。
私の存在を願うような発言をするなんて。
頭の奥がじわじわ痺れてあっという間に涙が目の中に溜まったから、急いで下を向いた。
どうしてだろう。
涙でひざの上の手も歪んでよく見えない。
なんとか涙をおさめなきゃ。
誰にもわからないようにそっとゆっくり口で息をした。
でも、瞬きしたその瞬間、ポタポタッと手の甲に両目から涙が落ちてしまい、しまったと思った時、父が低い声を出した。
「志嶋社長のご子息は優秀ですから、出来の悪い子を持った親の気持ちはわからんでしょう。こんな娘、褒めるだけ無駄ですよ」
強い口調の父と柔らかい口調の社長さん。二人は会話こそしているけれど、全く別の空間に生きているようだった。