それでも君が必要だ
「智史さんが、嫌なのかなって……思ったから」
本当のことを言えない私が悪いのに、智史さんのせいにするような言い方をしてしまい、また罪悪感を覚えて目をそらす。
「何言ってんの?俺が嫌なわけないでしょ?そういうことならどんどん公表しよーっと」
そんな!
どうして行ってはいけない方向に進んでしまうんだろう。
そもそも智史さんにとって、私は押し付けられた婚約者のはずなのに、どうしてそんなことを言うの?
公表することで逃げ道をなくして、自分を納得させようとでもしているの?
そんなことはしなくてもいいのに。
私という足かせはすぐにいなくなるんだから……。
そう言いたいけれど、伝えるわけにもいかず。
何も言えないまま商店街を抜けて古い街並みを歩いた。
石造りの蔵があったり、お風呂屋さんの煙突があったり、また見慣れないものばかり。
そして歩くこと数分。
「ここだよ」
目の前に現れたのは、この界隈にしては大きい建物だった。
灰色のトタンの壁に覆われた建物。三角屋根の下には『シジマ工業』と白い文字で書かれている。
「古い工場でしょ?驚いた?」
「い、いえ」
工場に行こう、と言われて連れて来られたものの、工場が一体どんなものなのか、全く想像しないままここに来てしまった。
「ここが正面玄関なんだけど、今日は休みで閉まってるから奥から入ろうね」
智史さんに連れられて横の駐車場から奥へ入って行くと、正面の大きさからは想像できないほど奥行きがあることに驚く。
「……大きい」
「あはは、そうかな?」
そのまま中ほどまで進むと、智史さんは小さな鉄製の扉の前で立ち止まった。