美人はツラいよ

あの夜から、交際をスタートさせた松田君と私は、その後も至って順調に愛をはぐくみ続けた。

そして、つき合い始めてからちょうど一年の記念日にプロポーズを受けた。
今度は「北京ダックが食べたい」と言い出した私に、笑いながら高級中華のお店を予約してくれた彼。
浮かれた気分で北京ダックを頬張りながら、目の前に差し出されたエンゲージリングを見たときは、驚きのあまり言葉が出なかった。
こんな私に、まだまだ若い彼が、こんなにも早く将来を誓ってくれるとは夢にも思わなかった。

「来年も再来年も、ずっとずっと先も、僕を笑わせて下さい。」
「…それって。」
「もちろん、プロポーズです。」
「…私で、いいの?」
「いまさらですか?何度も言うように、僕は萱島千景という人間に、相当毒されてるみたいです。こんなに綺麗なのに、いまいち自信がなくて、一生懸命なあまり時々周りが見えなくて空回りしてたり、たまに勝手に変な勘違いしてイジケたかと思えば、その反動でむちゃくちゃ甘えてきたり、とにかく一緒にいるとおもしろくて、全く飽きません。」
「…それ、全く褒められてる気がしないよ。」
「とにかく、僕はあなたを一生手放すつもりはありませんので。諦めて、一生、僕に餌付けされて下さい。」
「…はい。よろしくお願いします。」

色々と腑に落ちない中でも、私は嬉しくて、溢れる涙をそのままに、しっかりと頷いた。
その姿を見て、彼は本当に幸せそうに笑って、「安心して下さい、僕、釣った魚にも餌をやるタイプですから」と、言ったのだ。
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