美人はツラいよ
寂しいが、仕方がない。
それでも、今日で最後というのは急だ。今まで散々お世話になったのだ。

「でも、まだ、辞めるまで半年あるんですよね?それなら、また…」

最後くらいは、私のおごりで何か美味しいものでも食べに行きましょう。
そう、続くはずの言葉を彼は遮った。

「いや、駄目なんだ。親から帰ってくるなら、これを機に身を固めろって勧められてね。確かにいい歳だしさ、今度こっちで見合いするんだ。さすがに、結婚前提で見合いした男が部下とはいえ女の子と二人っきりで食事してるのは、まずいから。」
「別に、私たちはやましいことなんてないしゃないですか。」
「やましいこと、か。確かに、美姫ちゃんにはないかもね。でも、俺にはあるよ。」

しっかりと見つめられて、告げられた言葉は曖昧だけど、はっきりと彼の好意が伝わるものだった。

「なるべく気付かれないようにしてたけど、俺はずっと君に対してやましい心があった。」
「そんな、私…」
「いいよ、分かってるから。最初から脈がないことは分かってて誘ってたんだ。一緒に楽しく過ごせただけで、十分だよ。今まで付き合ってくれて、ありがとう。」

田上さんは本当に清々しそうな顔でそう言った。
私はただ「いえ、こちらこそ」と小さな声で呟くので精一杯で、何故かちっとも上手く笑えなかった。
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