美人はツラいよ
今日の田上さんもいつもと変わらず、大好きな赤ワインのボトルを注文してご機嫌だった。
私たち二人は、食べ物とお酒の好みが似ている。そのことも、この不思議な食事会が長く続いている理由の一つだろう。
私も、調子に乗ってどんどんワイングラスを傾けて、看板料理の牛すじの煮込みを頬張る。
大口を開けて食べても、酔っぱらってフラフラになっても、田上さんはいつも可愛いと笑ってくれる。
ほんとうに妹を溺愛している兄みたいだ。
ほろ酔い加減で笑って、目の前の田上さんを見たら、彼は意外にも真剣な顔でこちらを見ていた。
そして、珍しく真剣な口調で話し始めた。
「美姫ちゃん、実は俺、話があって。」
「急に改まって、何ですか?」
私も酔いがいい具合に回って、えへへと首をだらしなく傾げた。変に改まっちゃって、またどうせいつもの仕事の愚痴か何かだろう。
そんな風に思っていた私は、彼の次の一言に思わず顔を引きつらせた。
「実はさ、もう美姫ちゃんとこんな風に食事に来るのは、今日で最後にしようと思って。」
「どういうことですか?」
何か知らないうちに、彼の気分を害するようなことをしてしまったのか。
流石に、親しき仲にも礼儀ありだったのかもしれない。
理由を聞いて謝ろうとしていた私に、彼は意外な事実を告げた。
「まだ、皆には知らせてないけど、俺、会社辞めて地元に帰るんだ。」
「それ、本当ですか?」
「ああ、今期の決算までは残るつもりだから、引継の期間も合わせてあと半年くらいは居るんだけど。」
「地元に帰るって…」
「俺の父親、地元で会計事務所をやってて。本当は兄貴が跡を継ぐ予定だったんだけど、スキルアップのためにアメリカに留学したら向こうの暮らしが気に入っちゃったみたいで、代わりに俺に継がないかって話になってさ。まあ、俺も特に今の会社で何か目標がある訳じゃないから、いいかなって。」
「随分とあっさりですね…」
「元々、俺も興味がないわけじゃないから。大学の時に資格だけ取ろうとしたけど断念したから、帰ってもしばらくは勉強漬けだよ。」
「そうですか…」
突然の宣言に驚いた。
まさか、そんな展開だとは。
彼は確か東北の出身だったと思う。都市部の出身でも、なかなか訛が消えなかったという話を前に聞いたことがあった。