エリート同期は意地悪がお好き
驚きの眼差しで黒澤社長と言われた謎のイケメンを見上げる。

すると、黒澤社長は困ったような笑みを浮かべた。

「…驚きましたね。私は、こう言うものです」

そう言って、名刺を手渡されて凝視した。

…本当に、この人は社長だった。しかも、かなり大手の企業だ。この会社を知らない人の方が珍しい。

「…では、行きましょう」
「…あ!」
「…え?」

驚き声を上げた私に少し驚いたのか、黒澤社長の手が緩んだ。

それを良いことに、私は黒澤社長から逃げ出した。

「ちょっと!」
「すみません!ありがとうございました!」

捨て台詞を吐いた私は駅の中に走り去り、黒澤社長は呆気にとられ、しばらく放心状態。

「…黒澤社長?」

運転手の呼びかけに、突然黒澤社長は笑い出し、運転手は怪訝な顔で黒澤社長を見る。

「…ホント、可愛らしい人だ」
「…黒澤社長、あの、これは、あの女性が落としていったのでは?」

数歩歩いて手に持ったのは、朱莉の名刺ケース。

中を見た黒澤社長は微笑んだ。


TOJOU 営業部
斎藤 朱莉


「…あの子に、ピッタリな名前だ」
「…黒澤社長、急ぎませんと、会食に遅れます」

「…わかってるよ、さぁ、行こうか」

名刺ケースをポケットにしまった黒澤社長は車に乗り込み、駅を離れた。
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