エリート同期は意地悪がお好き
「…斎藤さん」
「・・・はい」

「辛い思いをさせてしまってすまない」
「…部長?」

そう言ったかと思うと、部長が私に頭を下げて、目を見開いた。

「阻止しようと、努力はしたんだよ」
「・・・え?」

部長を見つめていると、今までの説明を始めた。

「人事部の黒川部長から、突然この話が持ち上がって・・・」
「…黒川部長から、ですか?」

・・・まさか、社食で話しをしていた、とりとめのない話を、本気で受け取ってしまったのか?

でも、私は異動したいなんて、一言も言ってない。

「斎藤さん、君は営業部にとって、大事な人材だ。皆のサポートを嫌な顔一つしないで、すべて行ってくれる。部長の私がどれほど、君に助けられてきたか」

「…部長」

「だから、人事部になんて、渡すつもりはないときっぱり断ったんだよ」
「・・・」

真剣な表情に、それが本当の事だと信用できた。

「…でもな、常務からの通達だと言われたら、返す言葉が無くなった」
「・・・常務、ですか?」

「あぁ・・・何で、常務が君の事を目に止めたのか、私にも謎なんだが・・・それほどの人材を、営業部ではなく、人事部で発揮してもらいたいと・・・ふがいない上司ですまない。常務には、流石に逆らえない」

「いえ。そんな!部長は、私を営業部に留めようと頑張ってくださったんでしょう?それを聞けただけで十分です。私のせいで、部長が部長じゃなくなる方が、胸を痛めます」

「…斎藤さん」

「…この決定に、従いますから・・・もう、部長は気になさらないでください。・・・でも、私が抜けたら、営業の事務は一体?」

「それは人事部の人と、交換という形になってる」
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