遥か~新選組桜華伝~


元治元年、10月。


「沖田さーん!」


中庭の縁側に座って、刀の鞘を見つめる彼を呼びかけた。


難しそうな顔をしていた彼だったけど、私がかけ寄ると、刀を置いて柔らかく微笑んだ。


「遥さん。
どうしたんですか?」


「見てください、このりんご。
松本先生から頂いたんです!」


そう言って、籠いっぱいに入ったりんごを見せた。


「松本先生が……。
ずいぶんと大きなりんごですね」


沖田さんはかがんで、籠を覗き込む。


松本先生とは、松本良順(まつもとりょうじゅん)先生のこと。


新選組のお医者さんで、病気だけでなく隊士の健康診断などもしてくれている。


「ふふ。沖田さんが風邪ひかないようにって。
りんごって栄養価が高いんですよ」


「ありがたいですね。
でも、それなら心配いりません。最近はすごく元気ですから」


そう言って沖田さんは刀を振って見せる。




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