焦れ甘な恋が始まりました
  




まるで夢のような金曜日を越えた先の休日は、何も考えられなくなっている頭を休めるべく、久しぶりに実家へ帰った。



「急に帰ってくるなんて、珍しいわね。何かあったの?」

「ううん、特に何もないけど、なんとなく……」



実家に帰ると開口一番、母にそんなことを言われてギクリと跳ねる鼓動。


……あの後。

結局、一度もキスに触れることなく私を家まで送り届けてくれた下條社長は、車内でもただの一度も、世間話に口を開くことはなくて。


かく言う私も、なんとなくキスの理由は聞いてはいけない気がして……というか聞けるわけもなく、逃げるように窓の外へと視線を逸らした。


“ 今日は付き合ってくれて、ありがとう。それじゃあ、また月曜日に会社で ”


そんな言葉を残して走り去っていった車の、真っ赤なテールランプを見送った金曜日の夜。


何もかもが私が見た夢のような時間は、瞬く間に過ぎ去って、心に苦い疑問だけを残した。


 
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