焦れ甘な恋が始まりました
 


✽ ✽ ✽



『もしもし、杏?今、平気?』


「陽、突然どうしたの?まだ始業前だし、大丈夫よ」


『一昨日、実家(ウチ)に泊まった時に、杏が着替えのブラウス忘れていったって、母さんが』


「ああ……そういえば。でも、別に実家に置いといてくれていいよ?今すぐ必要なものでもないから、今度帰った時に持って帰るし」


『それ……今更。今朝、学校帰りに杏の会社に届けろって、母さんが俺に持たせたんだよ。俺の学校からなら、帰りに杏の会社寄れるからって』



夢から醒めた月曜日は、弟の陽からの “おつかい電話” から始まった。


来年高校三年生になる陽は、私を含めた姉二人のことを、それぞれ名前で呼ぶ。


小さい頃は「杏ちゃん」なんて、可愛く呼んでくれてた時もあったのに……今はもう、さすがにそれは恥ずかしいらしい。



『ってことで、今日学校終わった部活帰りに杏の会社寄るから、覚えといて』



言い方はぶっきらぼうでも、キチンと母のおつかいを遂行する陽を可愛く思いながら「ありがとう」と返事を返した。

 
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