焦れ甘な恋が始まりました
 




――――わたしが、わたしに帰る場所。



「やっぱり、このキャッチコピーで行こうと思います!これ以上のものは、ありません!」



お昼休み直前の総務部のデスクは、午前中いっぱいの仕事の追い込みで無言が多く、寡黙にパソコンと向き合う……というのが、通例だった。


けれど、ここ数ヶ月の間でそれが見事に覆されて。


その原因というのが今――――声高々に叫んでいる、企画部の狩野くんだ。



「日下部さんも、良いキャッチだと思いませんか!?なんていうか温かみがあって、それでいてVENUSを良く表現出来ていると思うんです!」


「う、うん……すごく、素敵だと思う」


「ですよね!?やっぱ、絶対これだと思ったんです!企画部で案が出た時、ビビッときたんですよ!!」


「そうなんだ?」


「そうです!!そうなんです!!運命を感じたんです!!」


「あー……もうっ!さっきから耳元で叫ばれると、うるさいです、狩野さん!」


「ご、ごめん……っ」


「あ、あははは……」


 
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