焦れ甘な恋が始まりました
 


総務部一帯に響き渡る声で叫ぶ狩野くんを黙らせたのは、あと一ヶ月半で寿退社をする小出ちゃん。


思わず苦笑いを零せば「日下部さーん、笑ってないでフォローお願いしますよー」と、狩野くんが情けない声を出した。


社長室で偶然打ち合わせに参加してからというもの、一日に一回は必ず総務部に来る狩野くん。


女性目線でプランを練らなければいけないのと、意外にも熱すぎるほど熱い心を持った狩野くんは少しの妥協も許さず、連日私に “ お客様の視点 ” での意見を求めてきた。


そんな毎日が一ヶ月半ほど続いたお陰で、今ではスッカリ小出ちゃんも狩野くんと打ち解けていて。


打ち解けている……っていうか、狩野くんという存在に慣れてしまった、という言い方の方が正しいかも。


静かな総務部のデスクで、興奮すると声が大きくなるという、これまた意外かつ迷惑な癖のある狩野くんを一喝して黙らせるのは、今では小出ちゃんの仕事の一つになっていた。



「とにかく、静かにしてください。何度言えばわかるんですか、全くもう……」


「す、すいません……」



小出ちゃん……一応、狩野くんの一つ下の後輩にあたるのに、結構厳しいよね……


今では、入社当時にカッコ可愛いなんて言って、目をハートにしてたのが嘘のようで、つい笑ってしまう。


 
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