焦れ甘な恋が始まりました
 


デスクの上に置かれたクライアントレシピとVENUSのプレスを持って、とても綺麗な笑みを浮かべた下條社長。


そんな社長を前にして――――私は、胸の高鳴りが増すばかりで、声を出すこともできなかったけれど。



「……挨拶状、私も手伝わせて頂けませんか?」


「企画部もっ!全員で、お手伝いしますっ!!っていうか、この際だし営業部にも手伝ってもらいましょう!」



社長だけでなく、心強い賛同の声が聞こえた瞬間、涙が溢れそうになって、それを必死に飲み込んだ。


高鳴る鼓動の理由はきっと……

不安ではなく、期待感から来るものに違いない。


このピンチに、こんなにもドキドキして、ワクワクしているなんて言ったら、罰が当たるかもしれない。……でも。だけど。



「……よし。じゃあ、今日は社員全員で、残業するか。とりあえず夕飯は、狩野の奢りで」


「うわ、社長っ!それ、完全パワハラです!!っていうか、日下部さんって料理上手いんですよね!?俺、日下部さんの手料理食べたいです!!」


「……狩野、お前、来月から給料3割カットな」


「え、ええーー!!なんでですか!?」



思い通りにはいかなくて、予想外のことばかり。

悲しくなったり、悔しい気持ちになることも多いけど――――


こんなにも仕事が楽しいと思えることが今、私はどうしようもなく嬉しくて……とても、幸せだった。


 
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