焦れ甘な恋が始まりました
 


そんな、緩い言葉と共に、なんの計画性もなく走り出した車。


隣を見れば、つい先程まで狼狽えていた様子の社長はどこにもいなくて、今はもう機嫌よく鼻歌まで口ずさんでいるから呆気に取られてしまう。


下條さん……ホントに、何がなんだか、わかりません。



「今日は金曜日だから、駅が賑やかだね」



予測不能な下條さんの隣で、最早そんな疑問すら口にするのも馬鹿馬鹿しくなって。


ついに抵抗する気さえなくなった私は一人、シートベルトをしめると座り心地のよい革のシートに身体を預けて前を向いた。


―――高いビル。煌めくネオン。


つい先程まで見ていたはずの駅の賑わいを横目で見ながら、私は社長の運転する車で予測不能な夜に向かって、走り出した。


 
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