好きの代わりにサヨナラを《完》
誰もいない音楽室の分厚い防音扉を開く。

この静かな空間の中では、少しだけ落ち着ける気がした。

黒板の前に置かれたグランドピアノの前に座る。

鍵がかかっているかと思ったけど、手をかけると鍵盤の蓋は簡単に開いた。



あたしは人差し指で、真ん中のドの音を押してみた。

人気のない音楽室に、ポーンと音が響く。



蒼に告白されるなんて思っていなかった。

あたしと蒼は幼い頃からずっと一緒で、お互いのことは何でも理解していると思っていた。



蒼はいつでもあたしに優しかった。

ぶっきらぼうで気の利いたセリフなんて言わないけど、いつも困った時には手を差し伸べてくれていた。

さり気ない言葉の裏に隠されていた蒼の気持ちに、あたしは全然気づかなかった。
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