好きの代わりにサヨナラを《完》
だけど、それは違う。

本当は気づいてるのに、気づかないフリをしていた。



あたしには幼なじみの距離がちょうどよかった。

その関係が壊れてしまうのが怖くて、自分の気持ちにも、蒼の気持ちにも気づかないフリをしていた。



あたしは蒼のことが好きだ。

もう彼に伝えることができない気持ちに、はっきり気づいてしまった。

あたしは何か曲を演奏する訳ではなく、ひたすらポーンとドの音を押し続けていた。



「あんた、ピアノ弾けないの?」

音楽室には誰もいないと思っていた。

突然聞こえた男の声に驚いて顔を上げると、部屋の隅に無造作に置かれている打楽器の後ろで寝そべる恭平の足が見えた。
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