オフィスにラブは落ちてねぇ!!
秋の日暮れは早い。

窓の外は、もうすっかり暗くなっている。

愛美は部屋に明かりも灯さず、ベッドにもたれ膝を抱えてうずくまっていた。

(嘘つき…。)

壁時計のオルゴールが午後6時を報せると、愛美はスマホの電源を切り、ベッドの上に放り投げて、髪飾りをはずした。

髪をほどき、服を脱ぎ捨ててシャワー室に入り、化粧を落とした。

(バカらしい…。もうやめた…。いくら優しくても約束を守れない人となんて、やっぱりうまく行くはずない…。)

仕事だから仕方ないと頭ではわかっていても、あんなに期待させておいて直前になってこんなのひどすぎると、心の中で緒川支部長を責めた。

シャワーのお湯とは違う温かい滴が、お湯と混じり合って愛美の頬を伝った。

(やっぱり期待なんかしちゃダメだな…。こんなにがっかりするなんて思ってなかった…。)




シャワー室を出た愛美は、濡れた髪を適当に拭いて部屋着に着替え、冷蔵庫からビールを取り出した。

もう何も考えたくなくて、ベッドにもたれて早いペースでビールを煽った。

今頃きっと、デートの約束をした事も忘れて、愛美の大嫌いな緒川支部長になって仕事しているのだろうと思うと、また腹が立った。

どんなに責めてもどうしようもない事も、大人なのだから子供みたいなわがままは言うべきじゃないという事もわかっている。

ただ急な仕事でデートをドタキャンされただけなのに、しかも相手は大嫌いな緒川支部長なのに、思いがけない優しさに触れて気持ちがほんの少し傾きかけていた分、余計に胸が痛んだ。

(普段どんなに優しくても、仕事のためなら性格も変えられる人だもんな…。支部長はやっぱり支部長だ…。)


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