オフィスにラブは落ちてねぇ!!
緒川支部長は愛美の部屋のチャイムを鳴らした。

待ってると言ったはずなのに、少し待っても愛美は出て来ない。

おかしいなと思いつつ、もう一度チャイムを鳴らす。

それでもなんの反応もない。

入れ違いになったのかもと思い、緒川支部長は“着いたよ、どこにいるの?”と愛美にメールを送った。

すると、ドアのすぐ向こうでメールの受信音が聞こえた。

すぐそこにいるはずなのになぜ出て来ないのかと不審に思った緒川支部長は、もう一度チャイムを鳴らすが、やはり愛美は出て来ない。

妙な胸騒ぎがして、緒川支部長はドアノブに手を掛けドアを開いた。

「愛美?!」

玄関先で着衣を乱され、男に組み敷かれて涙を流している愛美の姿を目にした緒川支部長は、慌てて駆け寄り男の襟首を掴んだ。

「愛美から離れろ!!」

すごい力で愛美から男を引き剥がし、腕をねじり上げて押さえつけた。

やっと解放された愛美は、乱れた衣服を震える手でかき合わせる。

緒川支部長は男を押さえつけたままの体勢で、ポケットからスマホを出して警察に電話を掛けた。

しばらくすると警察がやって来て、緒川支部長に代わって男を取り押さえた。

警察に事情を聞かれると、愛美はうつむきながら小さな声で、男の名前や、昔の恋人である事、付き合っていた当時も何度も暴力を振るわれていた事などを話した。

詳しい聴取はまた後日と言って、警察は男を連れて去って行った。

二人きりになると、緒川支部長は愛美を抱きしめて、優しく頭を撫でた。

緒川支部長の腕の中で、愛美は震えながらボロボロと泣き崩れた。

「怖かったね…。もう大丈夫だよ…。」

緒川支部長はしばらくそうして愛美を抱きしめた後、愛美の手を引いて部屋に連れていくと、ベッドにもたれて座った。

そして、愛美にも隣に座るように促し、肩を抱き寄せて頭を撫でた。

愛美は顔を見られたくなくて、黙ったままうつむいている。

「気持ちが落ち着くまで、少しこうしていよう。」



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