オフィスにラブは落ちてねぇ!!
愛美は緒川支部長の温もりと優しさを感じながら、ぐるぐると思いを巡らせた。

泰士の顔を見た瞬間、忘れたい、忘れようと何度も思っていたつらい記憶が蘇った。

散々傷付けるだけ傷付けて、愛美を捨て他の女を選んで去って行った泰士が、今更現れるとは思ってもみなかった。

泰士の自分勝手な態度や、強引に押し倒し乱暴に体をまさぐる手の感触はあの頃と同じで、また殴られて犯されると思うと、恐怖で声が出なかった。

そして、助けてもらったとは言え、好きな人にあんなところを見られてしまった事は、愛美にとって大きなショックだった。

(でも…政弘さんが来てくれなかったら今頃…。)

愛美は蘇る恐怖に身震いする。

ずっと前に別れたはずの人がまさか目の前に現れるなんてとか、玄関のドアを開ける前にちゃんと確認すれば良かったとか、嫌われたらどうしようとか、いろんな思いが愛美の頭を駆け巡る。

「ごめんなさい…。」

愛美の口から、自然とその一言がこぼれた。

「愛美は何も悪くないのに、なんで謝るの?」

「ドア開ける前に、ちゃんと確認すれば良かった…。」

「俺が来たんだと思ったんだよね?」

愛美がうなずくと、緒川支部長は何度も優しく頭を撫でた。

「ごめんね。会社から直接来れば良かったな…。そうすれば、愛美を怖い目に合わせずに済んだのに…。」

「あんなところ見られたくはなかったけど…。でも、助けてくれなかったら…今頃、私…。」

また愛美の目から流れた涙が、頬にいくつもの筋を作った。

緒川支部長は愛美の頭を撫でながら優しい声で話す。

「愛美、もう大丈夫だから…。なんにも考えないで、少し休もう。俺はそばにいるから。」





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