月が満ちるまで
ボートが水面を滑っていく。
こうして二人だけで居るのは照れくさい。
彼女はぐるっと周りを見回していた。
なにか遠くを見回して…ゆっくりと瞬きをした。
「ボートに乗るの、初めて」
「うん。面白いね」
座っているから水面が近い。船縁からのぞくと魚が見える。
周りを見るのに忙しいようで、子供のようだった。
そんな様子を見ているのも楽しくて、彼女のすきなようにさせていた。
小さな池を二週したところで、気づいたようだ。
「わたし、ぼんやりしてた」
向かい合うように座っているのだから、気づかないわけはない。
見ようとしなくても、視界にはいるのだから。
「なんだか良いものでもあった」
「綺麗だなぁ…って思ってて」
恥ずかしいのか、髪の毛をいじっている。
「せっかく誘ってもらったのに、ぼんやりしちゃった」
「橘さんが楽しそうだから、いいよ」
ゆっくりとオールを漕ぐ。
このまま、何時間でもいたっていい。
「わたし変わってるみたいだから、変に思われてもしょうがないから」
「そんなことないよ。すごく楽しそうで、誘ってよかったよ。でもどんな風に考えてたか教えてくれたらいいな」
「…すごく、感覚的なの。この緑は春の緑だとか、水面につく船の跡だとか…そんなこと」
考えているようで、指が唇をさわる。
小さいけど、ぷっくりかわいい。
じっと見ていたら、頬や髪に触れてみたくなる。
彼女は、俺のこと意識してないのかな。
こんなに傍にいるのに。
いっしんに周りを見ていたのに、一番近くにいた俺のことは忘れてる。
まだまだなのかなぁ……
俺が彼女の中に住めるのは。
帆をあげて風を待つように。
彼女の心がなびく風を待っている。