ジー・フール

「止まれー!」
さっきとは違う男が怒鳴る。
低い重い声だった。
情に熱い人間だろう、と勝手に解釈してみる。

後ろで揉めている。
騒がしく。
何か意見の食い違いでも生じたか。
これだから止められない。
人間はおもしろい。
僕は立ち止まって振り返った。
今まで走っていたせいか、いきなり止まるとなんだか苦しい。
汗と雨が混じる。
体が重い気がする。
心臓の鼓動が激しく蠢く。

かすかに上下に動く体。
肩をすくめる。
4mくらいのところで、僕を半分無視してもみ合いになっていた。
僕が止まれば男たちも止まる。
男たちの狙いは僕にある。

「よし、こっちへ来るんだ」

グループの頭だろうか。
初めてまじまじと見た男たちは、皆サングラスをかけていた。
黒いサングラス。
黒と言えるのは、僕が男たちのスーツが黒だと決め付けているからだ。
そして顔の3分の1はしめている。

僕はニヤリと微笑む。
男たちは騒ぎだす。

「僕の勝ち」
一言呟いて僕はまた振り返り走りだす。
ギャー、という男の声。
それと同時に聞こえた小さい音。

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