ジー・フール



今日の任務はいつもよりも早く切り上げられた。
そのおかげで僕は、こうしてゆっくり酒が飲める。
グラスに手を伸ばし、一気に飲み干した。
雰囲気の良いバー。ジャズ。
でも、僕はあんまり気に入らない。
静かな場所で飲む酒は、おいしいと思えない。
だからと言って、騒がしいところで飲むのもなんか違う。
L字型のカウンターには、僕ともう1人男が飲んでいるだけだった。
カウンターの中にあるボトルを眺めていると、男が話し掛けてきた。

「君も1人かい?」
目線を男に向けた。
だいぶ酔っているのだろう。
顔が赤く。酒臭い。
白いワイシャツに長い髪を後ろで縛っていた。
ノーネクタイで胸がはだけていた。

「えぇ…」
僕は頷きながら答えた。
男は前を向き微笑むと、持っていた空っぽのグラスをテーブルに置いた。
男の見つめる先は並べられたボトルだった。
何か頼むのだろうか。
僕はいつも同じ酒しか飲まない。
冒険をしてみようと思うが、口に合わなかったことを思うと、何故か身が退ける。
この酒で満足しているのだから、わざわざ他のを飲もうと思えなくなる。
矛盾しているだろうか。

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