キスは目覚めの5秒後に
と、ゴン!と額に強い衝撃を受けて、瞼の裏に星が散った。
「痛ーいっ!なにするんですかっ」
いきなり、ヒドイ。
今の、頭突き?
涙目になって額を摩っていると、橘さんは説教するように言った。
「まったく、簡単に許すな。流されるな。だから、あんたには隙があるって言うんだ」
「だって・・・」
あなたが動けなくしたくせに。
それに簡単なんかじゃない、これでも一応覚悟をしてたんだもの。
そう言いかえしたいけれど、声が詰まる。
「だってじゃない。しっかりしないと、そのうちもっと酷い目にあうぞ。特にアイツ、ルドルフには気を付けろよ。良い噂を聞かない」
「ルドルフ?・・・あの人の誘にはのるつもりありませんから、大丈夫です」
何故か、帰国の話から飛躍してしまっている。
これはなんだか誤魔化されてるような気がする。
やっぱりきちんと契約を書き直してもらうべきだろうか。
最初にレストランで会ったときはとっても優しそうな感じだったのに、こんなにイジワルだなんて。
第一印象って、意外とあてにならないのね・・・。
「あの、契約は」
「心配するな。ちゃんと無事に帰してやる」
「本当ですか?」
「俺だけは、信じていい。分かったか」
そう言いながら、橘さんは私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「・・・はい」
彼の大きな手のひらが、とてもあたたかく感じた。
イジワルな彼、優しい彼、どっちが本当の橘さんなのだろう。