キスは目覚めの5秒後に
ただの紙切れだけれど、彼にお世話になっている以上は無視できない。
まさか、彼の許しがないと帰国できないのだろうか。
確かに、私がいなくなれば彼の仕事はやり難くなるから、完全に終わるまでいてほしいのかもしれない。
けれど、でも、私は!
焦って橘さんを見上げると、声を立てて笑った。
「真に受けるな。冗談だよ」
「冗談!?もうっ、言っていいことと悪いことがあります!橘さんはすっごくイジワルです!」
本当に帰れないかもって、思ってしまったではないか。
むかっとして、ぷいっと横を向くと、大きな手のひらが頬を包んでくいっと元に戻された。
「美也子、怒るな」
ソフトな口調の低めの声が耳を擽る。
橘さんの顔がすごく近い。
彼の私を見る瞳は、さっきまでの意地悪な雰囲気とは違ってて優しく見える。
どうしてそんな目をしているの?
同情?
目をそらすことができなくてじっと見つめていると、橘さんの顔がだんだんゆっくり近づいて来た。
これはまさか・・・。
このままだと橘さんの唇が、私の――
「・・・美也子」
切なそうな声。
甘さを含んだ眼差しから逃れるように、目を瞑る。
彼の息が私の唇に掛かるのを感じる。