キスは目覚めの5秒後に

人の流れに従って歩けば、だんだん建物の細かい部分がはっきり見えてきた。

丸い柱と壁の彫刻は、所々欠けていてずいぶん古く感じる。


「ここは、昔貴族の別荘だったらしいぞ」

「そんなすごい会社がクライアントなんですか?」

「正確には、元クライアントだ。何年か前、倒産寸前のところをうちの会社がコンサルティングをしたんだ。結果は見てのとおり、大成功だな。それで、感謝した経営者が毎年社員のみんなをパーティに呼ぶんだ。俺が来るのは、これが二度目。前はクリスマスパーティだったな」

「毎回違うんですか」


一歩中に入ればあまりの豪華さにため息が出る。

この家は一体いくらで購入できるものなんだろうか。

建物の中にも外にもSPみたいな黒服がいて、廊下は中世の模様そのままで、まるでタイムスリップした気分になる。


なんだか緊張してきた。

もしかして、楽団がいてダンスなんか踊ったりするのだろうか。

どうしよう、そんなのできないんだけど。


「橘さんは、ダンスできるんですか?」


焦りを隠しつつ訊けば、まあな、としれっと言う。

橘さんは踊れるのか・・・。


「会話が主だから、ダンスの心配はしなくていい。それよりも、だ」


橘さんが急にピタッと止まるから、つんのめりながらも同じ様に止まると、顎に添えられた指でぐっと上を向かされた。


「いいか。俺以外の男に隙を見せるなよ」


じっと見つめてくる目も口調も真剣で、急に雰囲気が変わっていて戸惑ってしまう。


「わかったな?返事は」

「はい・・・見せません」

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