キスは目覚めの5秒後に

「ちょっと待ってください」

「待たん。手に入ったと思ったらするりと逃げられたんだ。今度は逃さねえぞ」

「そんな。だって、あのとき言葉をくれなかったじゃないですか」

「最初に俺は、ずっと愛せる自信のない女は抱かない。そう言っただろう。それくらい察しろ」


キョトンと彼を見つめる。

それってもしかして、“先の約束の出来ない女”と言ったこと?

あれは、“愛せない女”という意味だったの?

結婚とか恋人とかそういう約束では無くて?

じゃあ、私は・・・??


そこから先は考えることができなくなった。

彼の指や唇に翻弄されて、ただ甘い声を漏らすだけになる。

苦しいくらいにキスをされながら満足させられてぐったりとする私を、彼は満足そうに微笑んで見下ろした。

隣に沈み込んだ彼の腕にすっぽり包まれて、私はその胸に顔を埋めた。

今、すごく幸福感に満ちている。

これが夢なら冷めないでほしい。


「サンタのプレゼントがようやく俺に届いた。約一年遅れだったな・・・」

「それって、サンタさんにお願いした、あのときの?」

「そう。俺が欲しかったものは“竹下美也子”だからな」

「それ、本当?」

「俺は、嘘は言わない」

「私はね“幸せ”なの」


そっか。お互い、一足遅いプレゼントをもらえたんだ。


この広い世界の中でまた会えたなんて、偶然なんかじゃない。

きっと、心のどこかでずっと願っていて、また巡り合うことを期待して待っていたから。

お互いにその気もちがあったから、引き合ったのかもしれない。

私の隣で眠りそうな彼にちょっと意地悪く話しかけてみる。


「ねえ、明日目が覚めたら、5秒後にキスしてくれる?」

「覚えていたらな」


イジワルで、ズルくて、時々甘い彼。

私はこの人から一生離れられない気がした。



【完】
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