キスは目覚めの5秒後に
「・・・橘さん、覚えていたんですか?」
「あたり前だ。あんたみたいなインパクトのある女、忘れる訳がないだろう。ちょっと、来い」
ぐっと手を握られて、橘さんはスタスタと歩いて行くから必死に合わせる。
「ちょっと橘さん。どこに行くんですか」
「ゆっくり話せるところだ。あんたに有無は言わせない」
橘さんは駅前のシティホテルに入っていくから、ちょっと戸惑ってしまう。
「あの」
「黙れ」
フロントで空き部屋があるか訊いてる間も彼は、私の手を握ったまま離さない。
手続きをして鍵を受け取って部屋まで来ると、ようやく手を離してもらえた。
その代わり、壁に追い込まれて両腕で囲まれてしまった。
彼の顔がものすごく近くて堪らずに顔をそむけると、顎を支えられてくいっと上を向かされた。
「竹下美也子。なんで黙って去った。5秒で答えろ」
「あ・・・あのときは、そうしないと駄目だったんです。あなたから、離れることができなくて・・・声を聞いたら帰れなくなると思って、それで、です」
一瞬目を見開いた後、彼は唇だけで笑ってふうんと鼻を鳴らした。
私を見つめる目から怒りの色がなくなって、艶を含んだものに変わっていく。
「竹下美也子、今、抱いてくれる男はいるのか?」
「な、そんな人は、いません!」
「じゃあ、遠慮しなくていいな」
「え?」
膝裏に彼の腕が射しこまれて、いきなりの浮遊感に襲われて焦ってしまい、彼の首に腕を巻き付けた。