危険な愛を抱きしめて
 


「………!」

 由香里は。

 両目に、涙の粒をため……あふれさせると。

 オレの胸を叩いた。

 一撃で、相手の目を回すことの出来るような、必殺の拳ではなく。

 ぽかぽかと、まるで。

 普通の女の子が、叩くように。

「……まだ半分、あるんじゃない」

「なんだよ!」

「まだ、可能性が、半分もあるんじゃない!!
 どんなにがんばったって、全く望みのないヒトだっているのに!
 ちゃんと治る可能性を、捨てるなんて雪は、贅沢で、わがままよ!」

「「由香里!!」」

 涙でぐしゃぐしゃになった由香里の叫びを止める声が、重なった。

 オレと。

 そして。

「……叔父さん……」

 由香里が、病室に入って来た人影に呟いた。

 そう。

 由香里と薫の保護者であるその叔父が。

 この部屋に入ってきたのだった。

 
< 70 / 368 >

この作品をシェア

pagetop