鈴木くんと彼女の不思議な関係

 一年前の春、我が高校の演劇部に入部して来たオンナノコの後輩は、役者や衣装ではなく、舞台美術をやりたいと言った。小さな頭、薄い眉、小さな口。細い肩に気弱そうな目。スタイルも顔も悪くはないが、全体的な印象が薄い。確かに役者という雰囲気ではなかった。だが、女子に大道具ができるだろうか?俺は半信半疑だった。

 舞台美術と言えば聞こえが良いが、俺達、大道具の仕事は、最初に絵を描いてしまったら、あとは構造の設計、強度の計算、電卓片手に図面を引いたら、木材を自分で運び、ノコギリで切断し、ノミで削り、金槌で釘を打って組み立てて、最後はできあがった装置の数々を人力で舞台へ運び込む。ほとんどが大工仕事の重労働だ。実際に人が立つ舞台を作るのだから、サイズも実寸だし、丈夫で安全でなければならないからだ。

 俺の不安を他所に、やらせてみると、彼女は俺よりずっと腕が良かった。美術のセンスも良ければ、計算や作業もなんなくこなし、木工の仕上がりも美しい。俺が勝っているのはほんの少しの経験と筋肉くらいだった。

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