鈴木くんと彼女の不思議な関係

 去年の夏休み過ぎた頃だろうか、汗をたらしながら大道具を運んでいると、彼女が拗ねたように言った。

『いいなぁ。私もこれくらい筋肉欲しいなぁ。』

 冗談だろ。これで彼女が筋肉までつけてしまったら、この可愛らしい後輩に俺が勝てるところが1つもなくなってしまう。でも、それだけは絶対にありえないので俺は安心して笑っていられる。

『いいだろ。』
 俺が力こぶを作ってみせてやると、彼女は遠慮なく触って来た。
『すごく硬い。鉄のかたまりみたい。』
 冷たい手がぺたぺたと俺の二の腕を撫でる。茶色い髪が俺の鼻先で揺れた。

 次に彼女は自分も腕まくりをして力こぶを作ろうと二の腕に力を込めた。らしい。だが、顔が真っ赤になるばかりで、二の腕にこぶらしきものは見当たらない。

『なんでこんなに違うんだろう。』
 俺と腕を並べようと、彼女は俺に背を向けて立ち、腕を並べて見比べる。弾力のある尻が俺の太腿に当たり、鼻先で揺れる髪から、ふんわりといい匂いが立ち上って、俺は慌てて身を引く。
 俺の戸惑いを他所に、彼女は口を尖らせながら、自分もこんな筋肉が欲しいと駄々を捏ねる。

『先輩なんかスポーツやってたんですか?』
傍で見ていた音響担当の後輩、川村が尋ねる。
『ああ、ずっとテニスをやってたんだ。』

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