鈴木くんと彼女の不思議な関係
聞いてくれ。間違えた。

 3年に進級して数日、俺達の引退公演の前夜のことだ。結局、俺は大野多恵に告白して、玉砕した。玉砕と言うのは適切じゃない。盛大に空振りしたと言うか、なんというか。最後はなんとか帳尻合わせに、先輩らしい言葉で誤摩化したけど、、なんの事はない、勢いで告白してしまっただけだった。

 本当は告白するつもりなどなかったのだ。だからこそ、彼女と過ごす時間が明日で最後だと思うと、気ばかりが焦って、何もせずにはいられなかった。

 2人で話をする機会は、多分、これで最後になる。告白はしなくてもいい。ただ、最後に2人だけの時間を持ちたい。楽しかった思い出を話して、一緒に過ごせて楽しかったと、彼女の事を信頼していた、俺を慕ってくれて嬉しかった、一緒に過ごせた全ての時間に感謝していると、そう伝えたい。それだけでいい。

 いや、あわよくば、多恵が嫌でなかったら、1年後に告白するつもりだと伝えられたら。そんな風に考えていた俺は、多分、どうかしていたんだろう。そんな上手く行く筈がなかったのに。

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