甘い香りに誘われて【続編 Ⅲ 完結しました】
ゆっくりと、車が動き出す。

運転している宮澤さんの横顔をそっと見る。

左手首にはめてる腕時計は、休日仕様なのかな?ゴツめの革ベルトで、文字盤の窓枠が小さく開いてる所に内部がのぞいてる。

(この時計って、翔太が『いつかは手に入れたい』て言ってた時計かも?)

「これが気になる?」

信号待ちのタイミングで、宮澤さんが腕時計をはめた左手首を軽くひねる。

思いっきりガン見してたみたい。恥ずかしい。

「はい…弟が『いつかは欲しい』て言ってた機械式時計に似てるな〜と思って。
つい見ちゃいました」

「そういえば弟さんがいるって言ってたね。いくつ?」

「二つ違いなので、22歳。W大学4回生です」

それから、お互いの家族の事を話した。

・・・・・

「宮澤さんのおじいちゃんが、林檎を育ててるんですね、林檎を育てるのって大変なんですよね?」一から林檎を栽培するって映画ありましたね…などど話す。

「林檎を育てたい…ていうのがじいちゃんの夢でね、林檎の栽培は定年後に始めたんだけど、5年経った辺りからコツを覚えたみたいで今年も豊作なんだ」

(白い林檎の花咲く農園で、まだ見ぬ宮澤さんのおじいちゃんとおばあちゃんが笑ってる)
へへへ…笑いが漏れる。

コラコラ、一人でどこかへ行かないでと左手をヒラヒラされる。




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