腹黒王子に秘密を握られました
 



「わぁい、お姉さんだぁっ!」


マンションの査定にお邪魔すると、拓斗くんが眩しいくらいの笑顔で出迎えてくれた。

「拓斗くん、こんにちは」

「お姉さん来てくれるかなって、楽しみにしてたんだよー。ぼくの部屋見る? こっちだよ」

「わぁ、ありがとう」

小さな手が私をひっぱる。拓斗くん、まじ天使。かわいすぎる。
金子のおかげで荒んだ心が、浄化されるわー。

きゃっきゃとはしゃぐ私たちの横では、金子と柴崎くんが、拓斗くんのご両親と挨拶をかわし、さっそく査定させていただきますと話を進める。

「拓斗、お姉さんを困らせるようなこと、しちゃだめよ」

お母さんの言葉に頷いて、私の手を引いて自分の部屋へと連れて行ってくれる拓斗くん。

部屋の中は、子供がいる家庭とは思えないほど整然としていて、モデルハウスの様で驚いた。
拓斗くんの部屋も、多少おもちゃがころがっていたりはするけれど、ちりひとつなくとても綺麗だった。

「すごく綺麗にしてるんだね」

「うん、ママがお掃除すきなんだ」

査定をしてもらうとなると、どの家も一応綺麗に掃除をして依頼するものだけど、拓斗くんのおうちはそれとはレベルが違った。
まるでプロのハウスクリーニングが入ったあとのように、どこもかしこもピカピカだ。

普段からこんなに綺麗にしているとしたら、拓斗くんの言うようによっぽど掃除が好きなんだろうな。
そう思いながら査定の様子を見守る拓斗くんのご両親を眺める。

三十代のごく普通のご夫婦。おだやかで優しそうなお父さんに、しっかりした印象のお母さん。
家は住む人の内面を知らず知らずのうちに反映するものだけど、この家はどこかよそよそしくて違和感があった。

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