腹黒王子に秘密を握られました
 

うつむいたまま黙り込んだ私に、柴崎くんが首を傾げる。

「思ったんですけど、金子さんと友野さんって、本当に付き合ってます?」

「……っ」

「きっと、付き合ってるフリをしてるだけじゃないです?」

「……なんで」

「だって、仕事中、友野さんはいつも無意識に金子さんの姿を目で追ってるけど、金子さんは友野さんのことを、一切見ようとしないから。まるでわざと視界に入らないようにしてるみたいに、友野さんから目をそらしてる」

口の中のパスタをロクに噛みもせず無理やり飲み込む。
ぐぐっと絞まった喉がくるしくて、思わず涙目になる。
それを柴崎くんに悟られたくなくて、俯いて呼吸を止めた。

「本当に付き合ってるなら、無意識に彼女のこと見ちゃうのに、わざと見ようとしないなんて、まるで好きでもないのに付き合ってるみたいだなと思って」

「……」

「もしかして、オタクだってことが金子さんにばれちゃって、黙っててもらうかわりに、付き合ってるフリをしてるとかですか?」

持っていたフォークから手を離す。
カシャンと音をたてて、フォークがテーブルの上から滑り落ちた。

赤いレンガ敷きのテラス席には街路樹のイチョウの葉が積もっていて、赤と黄色の対比が綺麗だなとぼんやりと思う。

私の実家の縁側の窓から見た、秋の里山を思い出す。
金子と一緒に見た、夕陽に照らされた赤い山を思い出す。


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