腹黒王子に秘密を握られました
 




約束の時間ぴったりにインターフォンを押す。

「新栄ハウジングの、金子と申します」

玄関先で完全無欠の爽やか王子様スマイルで名刺を差し出した金子に続き、「営業アシスタントの友野と申します」と私も名刺を取り出す。

「あ、お待ちしてました。えっと、中にどうぞ」

金子の微笑に気おされ気味の女性に「失礼します」と丁寧に頭を下げ、靴を揃えてお邪魔する。

依頼主の西村さんは三十代前半の女性。
控え目な雰囲気に、胸元まで伸ばした綺麗な髪が印象的な和風美人。
いい奥さんになりそう、なんて男性から好かれる感じの女性だ。

査定を依頼された一軒家は少し古めの築三十年だけど、変に凝ったところのないシンプルな間取りのせいか、そんなに古さは気にならない。

壁に開いた画鋲の穴や、柱の傷。時計がかかっていただろう場所だけうっすらと白い跡を残す日に焼けた壁紙。合板ではない立派な無垢材のフローリングの木目は、動線を示すようによく歩くところが微かに薄くなっていた。
リビングの掃出し窓の向こうには、ほどよい広さの庭もある。
綺麗に生えそろった芝生に大きな柿の木が一本あるだけの庭は、細かな手入れも必要ないだろうし、使い勝手もよさそうだ。

しっかりとした生活感を残しながら、それが不快ではない、気持ちのいい部屋だった。


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