恋の魔法と甘い罠Ⅱ




「さ、帰ろうか」



涙がようやくおさまると、朔はあたしの答えを聞くことなく歩き出した。


でも「何で泣いてたんだよ?」なんて訊かれても困るし、こうやって何も訊かずにいてくれることがちょっと嬉しかった。


帰り道で朔と話したことと言えば、本当にいつもと変わらないほどにたわいのないものばかりで。


いつの間にか着いていたあたしのアパートの前で、



「じゃあまたな」



これもまたいつも通りにそう言って朔は帰っていった。


全く触れてこなすぎて、もしかしてあの出来事は夢だった? なんて思ってしまうほどで。


けれど微かに感じる胸の痛みは、じゅくじゅくと化膿してしまうのではないかというほどに、生々しく残っていて。


やっぱり現実だったんだと気づかされた。
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