Engage Blues
「何がですか?」
「せっかくの休日だったのに、梨花の希望を訊いてない」
え、そんなこと?
気にしなくていいですよ。むしろ、珍しいものが拝めて惚れ直しました。
とか言ったら、微妙だよな。
「……男の子の扱い、とっても上手ですね」
さりげない感想を告げれば、慶さんは懐かしむように目を細める。
「あぁ、下に弟がいるからかな。ああいうのを見ると構いたくなる」
視線は、双子が去っていった方向だ。
彼らくらいの弟さんがいるのだろう。
そう察しはつくものの、確かめる気にはなれない。
慶さんは、あまり自分のことを喋りたがらない。
こちら側が訊ねればキチンと答えてくれるけど、どこか寂しげな口調に詮索することは憚られた。
彼は複雑な家庭で育ったらしく、あまり実家が好きではないみたいだ。
わたしが知るかぎりでも里帰りした記憶はひとつだけ。
一年前、お父様の葬儀の時。
準備やご家族との話し合いが必要なはずだろうに、彼は焼香を終えるとすぐに帰ってきてしまう。
つい驚きを隠せなくて喪服の上着を受け取ったまま、わたしは何も言えずにいた。