Engage Blues
普通に考えて、自分より強い女って気持ち悪いもんね。
可愛いって思える要素ある? って、感じ。
慶さんも同じだったらどうしよう。
彼にドン引きされたら、わたし二度と恋愛できない気がする。
鬱々と落ち込む思考に明るい声音が、スルッと割り込んできた。
「というか、あれは突然スイッチが入ったのごとく別人みたいに豹変した梨花のキレっぷりに驚いたんだと思いますよ」
「う、うるさいな! 余計なトラウマ増やさないでよ!」
タイミングよすぎる突っ込みに振り返って怒鳴る。
声の主は、案の定というかコウだった。
前回と同じく仕事帰りっぽいスーツ姿。
道行く人は、モデルかアイドルかと目を瞠る。
「今回だって無理がありますって。世界にも通用する武闘家の跡取り娘と『暴力? なにそれ、おいしいの?』ってぐらいに争い事とは無縁の菓子職人が、どう一緒になるって言うんです? 現実問題、愛だけじゃ乗り越えられない壁ってあると思います」
「うッ」
天使のような愛らしい笑顔で、深く傷口を抉ってくる。
仕事帰りに呑みませんかと連絡を寄越したと思ったら、わたしの相談に乗ってくれるためじゃないんだな。