私は、アナタ…になりたいです…。
「嫌わないで…」と彼女は言った。

腕を首に巻きつけながら、鼻をグスグス言わせてる。


「お願い。嫌わないで下さい…」


何のことかと聞きたくなった。でも、思い当たる節があって止めた。


「嫌ってなんかないよ」


髪に唇を寄せて囁いた。

髪の毛から香る果物の様な甘い香りは、ベリー系に近い気がする。


(いい匂いだな…)


心が救われると言うのは、こんな感じに似ているのかもしれない。
どこか凝り固まっていた嫌な思いが、すーっと消えていくような感じだ。



…腕を離していいか…と聞いた。

彼女はうんうん…と首は縦に振るものの、なかなか僕から離れなかった。


「河佐さん……咲知……休憩時間が無くなるよ…」


名前を呼ぶと、直ぐに離れた。
目頭を押さえながら彼女が僕の顔を見つめている。

丸くてビー玉みたいな目がクリクリと動いている。
目尻に向かって長くなっているつけまつ毛の先に、涙の粒が光っていた。


そんなものしなくても可愛い目なのにな…と思わせた。

ふ…っと笑って隣に腰かけると、顔を隠す様にする彼女の手からパンの袋を受け取り、中身を一つだけ取り出した。


「あっ!これ新作パン?」


四角い生地の上に、チーズハンバーグとデミグラスソースが乗っている。
彼女は目をタオルで押さえつけながら、「そうです…」と囁いた。


「旨そう!頂きます!」


大きな口を開けてパクつくと、泣き止んだ彼女がじっとこちらを見ていた。


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