私は、アナタ…になりたいです…。
「河佐さん…?」


呼ばれた声を空耳かと思った。
来る人のない声が聞こえるなんて、末期症状もいいところだ。


「もう、やだ……私…どうかしてる……」


顔をうっ潰して泣き出した。
明るい日差しに包まれていた筈なのに、急に温もりが感じられなくなって目線を上げた。
視界が暗かった。

その暗い視界の中に人の顔があって、ビクッ!…と必要以上に仰け反った。


前にいた人は私を覗き込む様にして顔を見ていた。

心配そうに傾げられた首が、なんで泣いてるのかが分からなそうだった。

声を出そうにも出せずにいた。
その私に向かって、少しだけ笑顔が見せられた。


「ごめん…遅れて。さっき外回りから戻ってきたところなんだ…」


握っていたハンドタオルを取り上げて、涙の雫を拭いてくれる。

その優しい行為が心を解して、思わず首に腕を巻きつけた。



「田所さん…!」


ふわっ…とマリン系のコロンが香った。
いきなり抱きつかれた彼は驚いて、それでも腕を振り解かないでいてくれる。

グス、グス…と泣き続ける私の髪を触りながら、ぽんぽん…と背中を撫でつける。
小さな子供みたいに扱われて、なんだかますます離れ難くなった。


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