私は、アナタ…になりたいです…。
自分が嫌い…。
河佐咲知を駅で見送った後、夜の街を1人で彷徨った。
過ごした時間の余韻にゆっくりと浸りたいのに、世の中の女子は煩かった。


「お一人ですか〜?」

「一緒に飲みません?」


『ほっとけ!』と怒鳴りたくなるのを我慢して笑顔で断る。
こんな人目につきやすい身長を晒している自分も悪いのかもしれないけれど、彼女のことを胸にしている今は、ひっそりと静かに過させて欲しかった。

数人の誘いを断り、もと来た路地に入りながら指先に触れた彼女の髪の感触を思い出していた。

柔らかなクセのないストレートの髪は、指に絡まることもなく解けていった。


真っ赤な顔をしている人は、ぼぅっとした表情のまま僕を見つめていた。
抱きしめたくなるくらいの可愛さがあって、それを引っ込めるのが大変なくらいだった。

握った手の感触はずっと掌の中に残っている。甘酸っぱい思いもまだ全身に満たされたままだ…。



ゆっくりと路地を歩いて『かごめ』の前に辿り着いた。

初めてこの路地に入り込んだ時、自分はかなりへこんでいた。


(誰にでも、思い出したくないことの一つや二つはあるものだろうけど…)


あの日の僕は、実母だと思い続けていた義母が実はそうじゃなかった…と知り、かなり戸惑っていた。

今と同じように夜の街中を彷徨いながら歩き、幼い頃を思い返していた。

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