私は、アナタ…になりたいです…。
義母にはいつもワガママばかりを言っていた。
父以上に世話が焼ける…と言いながらも、義母はそれを笑顔で聞いてくれていた。


どんな思いで実子でもない僕を育ててきたか…なんて考えたのは、その時が初めてだったと思う。

憎らしさも冷たさも欠片も見せずにいてくれた。
捻くれた性格に育てまいと、きっと必死だっただろうと思う。

誰よりも何よりも有難いことだと思わなければいけない筈なのに、心はどんどん逆方向へ進んで行くばかり。

秘密にされ続けていたことが悔しかったのもあったけれど、そんな単純なことだけじゃなかった。


実母が命を落とした本当の理由を知ったら、自分の存在そのものが憎らしくなってしまったーーー。




母体の割に胎児が大きかったが為に事故は起きた。

胎盤剥離の多量出血から救い出せたのは『子供だけだった』…と、父は教えてくれた。



『予想されていた出来事だったけれど、目の前で起きるとさすがにパニクった。分娩室への移動中にいきなり起きたことで、全ての処置が後手後手に回ってしまった…』


訴訟問題にもなりそうな死亡原因を父は母の生前からの願いもあって堪えた。

母は低身長の自分が出産するにあたっての死亡リスクが0%ではないことを医師からも伝えられていた。


『私がもしも死んでも決して誰も訴えないで。我が儘を押し通して妊娠して出産を希望したのは私なんだから…』


無理矢理な感じで約束させられた…と、父は母の写真に触れながら話した。


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