強引上司とオタク女子


それから数日、国島さんがアホみたいに大人しい。

なんだか気持ち悪いな、と思いつつ、二日に一度はヨーグルトの蓋をくれる。
順調に溜まっていく応募券。
これは素直に国島さんのお陰だな。

仕事的にはマニュアルは一度私の手を離れ、各所との打ち合わせへと入るらしい。またそこで出てきた変更を直させられるのだろうけど、今のところ基本定時帰りができるくらい。
まあ、国島さんたちは忙しそうだけどもね。

早々に会社をでて、鼻歌を口ずさみながら歩いていると、何かの警笛のようにスマホが鳴った。


『川野か?』


電波の向こうは国島さん。
緊迫した声から、何かがあったのだと分かる。


「はい。国島さん? どうかしました?」


『過去に依頼したことのある劇団のリストってどこにある?』

「ああ。紙ベースでなら鍵付きの棚の上段にあるはずですけど。データだと……えっと、どこだったかな」

『いいよ、紙であれば。……笠山、その棚探してくれ。……どこがヒーローショーの経験があるとか、そういうの分かるか?』


あれ、でも。
今回のヒーローショーはもうとっくに頼んであるんじゃなかったっけ。
私が黙っていると、国島さんが吐き捨てるように漏らした。


『実はちょっとトラブってな。頼んでいた劇団、バッティングしたらしい』

「は? どうしてですか?」


声を荒げたら、逆に電話越しの声は小さくなった。
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